今回の話し手 尾辻あやのさん

イエローページセタガヤオーナー兼株式会社FARMERS AGENCY取締役

NPO法人にてコミュニティカフェの運営、ケータリング事業の立ち上げ&運営などを経て、2020年に夫とともに世田谷区にイエローページセタガヤを開店。昼は有機野菜のつめ放題八百屋、夜は飲食店として2階のスペースを地域に解放している。

2021年には山梨を拠点に農業支援を行う会社、株式会社FARMERS AGENCYの役員に就任し、「八百屋はコミュニケーションツール」をコンセプトに農業繁盛×地域円満を目指すPOP UP式八百屋「プラスヤオヤ」の活動を開始。

“農業を当たり前に” 生産から物流までをワンストップでサポートしたい

かおりん尾辻さんのお仕事について教えてください。

尾辻あやのさん(以下、尾辻)まずはイエローページセタガヤの運営です。こちらは、松陰神社近く、世田谷通り沿いで営業しているお店です。昼間は八百屋で夕方からは飲食店として営業しています。2階にちょっとしたスペースがあるので、レンタルスペースにしたり飲み屋のお客さんに使っていただいたり、地域の方々のイベントに貸し出したりしています。

もう1つは株式会社FARMERS AGENCYの取締役です。“農業を当たり前の仕事にする”というコンセプトの会社で、農家さんに対する直接的な生産補助から、販売につなぐための物流管理、東京での販売、入り口から出口までを1社でサポートしています。
また、小さなプランターで野菜を育ててみることで農業のことを知ってもらうための活動を行う農業啓蒙もしています。

かおりん尾辻さんが、野菜の販売や農業にこだわる理由を教えてください。

尾辻前職で八百屋を開いてみたときの経験が大きかったと思います。お菓子やアパレルだと好みが分かれることで細分化されているのですが、野菜は基本的に皆が使うものです。世代、性別を問わず皆が触れられることと、基本的に人は皆美味しいものを食べたいと思っているので、お客さんを選ばないということが野菜の強みだと思っています。

また、農業は国のインフラ的な存在だと思っていて、水道、ガス、電気、教育、といった皆が当たり前に享受しているものと同様に、エリアや価格帯や味は違えど、皆が必要になるものというところで、お菓子でもケーキでもお酒でもなく、やはり野菜かなと思っています。

地域密着型のお店だからこそ、得られる喜びも大きい

かおりん世田谷にある店舗“イエローページセタガヤ”は、ネーミングがとても素敵ですが、ここにはどのような想いが込められているのでしょうか?

尾辻昼は八百屋で夜は飲食店、2階は地域に開放すると決めていたので、あまり偏った名前にはしたくありませんでした。「居酒屋〜」やフランス語を使ったような飲食店らしい名前だったり、反対にいかにも八百屋らしい名前にするのにも抵抗がありました。かと言って昼と夜で名前が変わるのもややこしい…。そこで、昼夜何を行なっても良いような名前にしようと考えはじめました。

次に、何を行いたいか考えたときに、事業形態が何であれ、ここをきっかけに欲しいものに出会えたり会いたかった人に会えたり、または知りたいことが知れたりなど、人と人だけではなく、「何かと何かが繋がる」というニュアンスのものが良いと思い、イエローページという名前にしました。今の若い子達はイエローページやタウンページは知らないかもしれませんが、イエローもページも簡単な単語なので、すぐに覚えられるかなと思いました。そこに、世田谷区でお店を始めるということもあり、“セタガヤ”を付け加えました。

かおりん実際に地域密着型のお店を運営をしてみて、反応や手応えを感じることはありますか?

尾辻飲食店の方はオープンから1年が経ち、コロナの影響で実質半分くらい休業している状況でしたが、休業しても八百屋がある関係で、お客さんとコミュニケーションを取れる回数は他の飲食店さんと比べればかなり多かったと思います。そういう意味でも、来店ハードルはかなり下げられるので、八百屋は地域の方とのとても良い接点だと思っています。

地域の方がメインターゲットなので、例えば、最初は「何なの、これ?」という反応だった近所の方々が、少しずつ何かを買ってくれるようになったりという変化も感じています。この間は、90歳くらいのおばあちゃんが「緊急事態宣言が明けて、人がたくさん来ていて良かったね。私も嬉しい。」と言ってくれてとても嬉しかったです。

農業繁盛、地域円満を八百屋からつくる

かおりんこの先挑戦したいことがあれば、ぜひ教えてください!

尾辻今、イエローページセタガヤ、株式会社FARMERSAGENCYの両方で野菜を売っていますが、八百屋を通して地域との接点が生まれている実感があります。
そこで、コミュニケーションツールとしての八百屋の部分をもっと様々な人に使ってほしいと思い、パッケージ化された八百屋をつくり、地域とつながりたい店舗や市民団体などが簡単に八百屋を始められる仕組みづくりを始めています。(プラスヤオヤ

八百屋を営むには、仕入れ先農家さんを集めたり棚卸什器を用意したりと面倒なことがたくさんあります。それを完全にパッケージ化して、仕入れから配送、配置、値段設定まで全部をセットにして簡単に開業可能な形にできれば、八百屋を開ける人が増え、農家さんも直接野菜を卸せるので、間を抜かれない売り先が増えます。
プラスヤオヤは農業繁盛、地域円満ということがコンセプトです。

SETAGAYA PORTの魅力は“人”

かおりんSETAGAYA PORTの面白いところは何でしょうか?

尾辻SETAGAYA PORTは知り合いの紹介で知りました。IID 世田谷ものづくり学校に興味があったこともあり、すぐに参画しました。SETAGAYA PORTにはスキルを持っていらっしゃる方々が集まっていて、かつ、土壌としてコミュニティを活性化させていこう、という意志のある方がメンバーになっているということが、とても面白いところだと思います。いざという時にも色々なスキルを持った仲間たちがいるので、POPをつくれる人がいたり、数字が得意な人がいたり、接客が得意な人もいると思うので、皆さんの力を少しずつお借りして地域のために色々なことができそうですね。

社会や地域の課題は、はっきり言って1億円があればすぐに解決してしまうようなことがたくさんあると思います。ですが、1億円はないけれど、10人、20人仲間がいて、「皆で行う過程が楽しい」ということがあるので、そういう楽しさを発見できるきっかけとしても最高ではないかと思います。

(文:コミュニティマネージャー かおりん)