今回の話し手 吉田剛さん

1976年、広島県生まれ。大学卒業後、家具メーカーに勤務。2008年、株式会社アボードを設立。

ウェブサイト:https://www.abode.co.jp/

新たな素材の開発秘話

事務局 まずはじめに、吉田さんご自身がどういったことをきっかけに株式会社アボード(以下、abode)という会社を設立されたのか、教えていただけますか?

吉田剛さん(以下、吉田さん)大学卒業後、木工メーカーに就職し、家具作りや商品開発、営業などを約8年間行っておりました。その経験をもとに、より、ものづくりに専念したいと思い2008年に独立し、abodeを設立しました。

家具が専門分野なので、英語で「住居」を意味する「abode」が社名なのですが、社名と同じブランド名で、オリジナルの家具プロダクトを製造しています。工場を持っていないファブレスメーカーなので、自社で企画デザインしたオリジナルの家具を日本各地の工場に製造依頼し、製造いただいたものを販売店さんに卸すことがメイン事業です。

主に、BEAMSさんやSpiral Marketさん、CIBONEさん、LOFTさん、東急ハンズさんなどの販売店さんに卸しています。自社のウェブサイトで直販もしているので、よろしければご覧になってください。(ウェブサイト:https://www.abode.co.jp/

abodeの家具プロダクトの他に、SETAGAYA PORTのエシカルギフトマーケット(イベントレポート:https://setagayaport.jp/news-events/ethical_setagaya_2022_report)でも出店した、「feelt(フィールト)」というフェルトのプロダクトもあります。「feelt」は感じるを意味する“feel”とフェルトを掛け合わせた造語で、9年前に素材から開発をして、家具とはまた違ったデザインで展開しています。硬質フェルトという、自社のオリジナル素材のみを使用したオリジナルブランドです。硬質フェルトの原料になるポリエステルは、ペットボトルなどの再生繊維を混合しており、地球環境を考慮したリサイクルに貢献するプロダクトです。製造時に発生する端材も廃棄せず、「chokipetasu(参考URL:http://chokipetasu.com/)」という子ども向けのワークショップで活用いただいております。

事務局feeltは、見た目もとても可愛らしくて、かつ環境に良い製品という点で、イベントでも興味をお持ちになっている方が多かったように思います。feeltが生まれた背景を教えてください。

吉田さん昔から素材というものに興味があり、過去にEDWINさんのジーンズの製造時に出る裁断くずと樹脂を混ぜて、デニムボードというアップサイクルボードを作った経験があります。その時の仕組みや経験を活かして、feeltで使用している硬質フェルトを量産化しました。

なぜこういった新しい素材を開発しようと思ったかというと、決められた素材でものづくりをしていると、どうしても、作る製品に限度が生まれてしまうのです。しかし、新しい素材ができることで、その素材の特性を活かした、今までできなかった加工方法や構造ができるようになります。同じ椅子でも作り方やデザインが変わるので、ものづくりの見方が変わるのです。

例えば、feeltのプロダクトで「INTO BOWL(https://www.abode.co.jp/product-page/into-bowl)」という小物入れに使えるボウルがあるのですが、厚み1cmの硬質フェルト生地に、9mmのカットを入れています。そのため、フェルト同士がつながっている部分は1mmしか残っていないけれど、繊維が複雑に絡んでいるので、プラスチックや木と違って、折れずに折り曲げることができます。素材が変わることによって新しいものづくりができるようになるので、素材には常にアンテナを張っています。

硬質フェルトで作られたプロダクト

事務局すごく奥深いお話ですね。今は会社を何名規模で運営されているのですか?

吉田さん設立からずっと一人でやっています。そのため、私自身の役割は、ブランドプロダクトをプロデュースすることがメインです。もちろんデザインもするのですが、外部のデザイナーさんに協力していただくこともありますし、設計は、工場の方とすり合わせながら行っています。

事務局そうなのですね。数多くの製品があるので、お一人でされているとは思っていませんでした。プロダクトは、どのようなところから着想を得てつくっていらっしゃるのですか?

吉田さん基本的には、自分が欲しいものを作っています。すごく極端かもしれないのですが、自分一人が欲しいと思っていれば、最低一人は欲しい人がいるということになります。誰かやどこかのお店を対象にしてしまうと、自分自身のしたかったものづくりと少し違ってしまう気がしているので、自分が好きだな、欲しいなと思うものを作るというのが基準になっていますね。

事務局その考え方、とても素敵だと思います。
ちなみに今、abodeとfeeltではどちらの比重が大きいのでしょうか?

吉田さんここ数年で変わってきているのが現状です。もともと、abodeのほうが扱う比重は大きかったのですが、1年前にfeeltに使用している硬質フェルトをカットする機械を導入したことをきっかけに、硬質フェルトを使った製品の依頼が増えてきています。

硬質フェルトには、約55%のペットボトルのリサイクル繊維が混入しています。その中に、例えば、アパレル企業さんが廃棄する衣料などの別の素材を混入することができるので、ごみを減らした活用方法に繋がるという点でお問い合わせをいただくことが多いです。

埼玉県のフェルト工場で職人が一つ一つ丁寧に硬質フェルトを仕上げている様子

今、実際に動いているプロジェクトだと、北海道日本ハムファイターズさんとお仕事させていただいているものがあります。今年新しく球場ができるのですが、球場に併設されるミュージアムでお客様が座る20人掛けのベンチを作っています。硬質フェルトの素材の中に北海道日本ハムファイターズの選手の廃棄するユニフォームやファンの方から回収した衣料を活用してボードをつくり、その材料でベンチを作ります。ぜひ実際に座ってみていただきたいです。

事務局北海道に行く目的ができました(笑)。環境に良いものを取り入れたいという企業が増えているのですね。

吉田さん私自身が前から考えてやってきた『ものづくりする上でなるべく無駄を出さないように』という想いが、ようやくうまくマッチしてきたと思っています。

繋がることで生まれるものづくりの可能性

事務局先程お話しいただきましたが、abodeさんには、SETAGAYA PORTが主催したエシカルギフトマーケットにご出店いただきました。出店いただき、いかがでしたか?

吉田さん普段、企業の方とやりとりすることが多いので、一般のお客さんとお話しできたということが一番良かったです。一人で運営しているため、なかなかイベント出店はできていないのですが、時間が許す限り、今後も参加したいです。また、個人的なことなのですが、途中で私の子どもが一緒にお店に立ちお客さんに説明する機会をいただけたことが、子どもの成長に繋がった気がしています。それだけではなく、子どもが接客したお客さんが商品を購入してくださり、「本当に良い時間を過ごさせてもらいました」とおっしゃっていただけたことも、とても嬉しかったです。

エシカルギフトマーケットに出店いただいた様子

事務局今後、どういった事業者さんとの繋がりを増やしていかれたいですか?

吉田さんものづくりをしていると、家具以外のお問い合わせをいただくことがあります。例えば、以前、ジュエリーブランドさんに、ジュエリーが当たっても音が鳴らず、傷つかない硬質フェルトのディスプレイ台を納品させていただいたことがありました。また、台だけではなく、アクリルを加えたボックスを相談いただいたこともあるのですが、当時、アクリルの対応をしていなかったため、ご一緒できなかったのですが、世田谷区のプロジェクト「SETA COLOR(URL:https://setacolor.tokyo/)」をきっかけに区内のアクリル加工事業者の方と繋がることができ、今では、何度かお仕事でご一緒させていただいています。

そういった、いろんなものづくりをされている世田谷区の事業者さんはまだまだたくさんいらっしゃると思うので、繋がりを増やして一緒にものづくりをしていけたらいいなと思っています。