今回の話し手 福島颯人さん
・株式会社ANCR 代表取締役CEO
・株式会社Kick Back Japan 取締役COO
・合同会社PARC 執行役員

1997年神奈川生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科の在学時に、同期とクリエイティブチーム株式会社ANCRを設立。
MONTBLANCやPorscheなどのプロモーションから、西武や京王などの商業施設の空間演出、店舗のデザイン設計に至るまで、幅広いクリエイティブを制作。大学卒業後には、新卒でリクルートに入社し飲食領域を担当。

現在は、リクルートでの知識を生かして、2021年にオリエンタルカフェCYCLO、食のセレクトショップ令和食品館を立ち上げるなど、その領域を徐々に広げている。

五感をアップデートする空間プロデュース

ぴこ福島さんのお仕事について教えてください。

福島颯人さん(以下、福島)僕は、空間プロデュースの会社を経営していて、主な事業としてはデザインが軸になります。その中でも五感をアップデートする事業を掲げて、五感からのアプローチを行う知覚デザインに注力しています。
例えば、嗅覚にアプローチするお香のブランドをつくったり、味覚にアプローチするカフェをつくったりしていて、直近ではコーヒーのブランドの立ち上げも行っています。感覚を刺激するアートのプロデュース事業として、これからは聴覚の観点から自然に入り込んでいくキャンプ事業の準備も進めています。

ぴことてもワクワクしますね!取り組みのきっかけや背景を教えてください。

福島ANCRは、大学3年次に同じ授業を取っていたメンバー5人で設立しました。僕を含めて経営陣メンバーが元々武蔵野美術大学の出身で、空間演出デザインというものを主軸に学んでいました。
学びのインプットとアウトプットを大学内だけで行っていると、外界からの評価などが得にくいと感じており、社会的な評価をつくっていくための法人格を持てるように大学の外で活動し始めたことが、株式会社ANCRの原点です。会社自体は今4期目に入ったので、僕としては社会人2年目、会社としては4年目の代です。

ぴこ大学生のときに起業されたのですね。その時はどういう空間をつくりたいという想いがあったのですか?

福島会社としては「体験したことの記憶のデザインをする」ということをテーマにしています。住宅のようなプライベートな空間よりは、商業施設のような様々な人の目に留まる空間を中心に手掛けて、訪れた人たちの意識的な部分に働きかけていきたいです。
バックグラウンドが異なる人たちがその空間を体験することでどう感じるのか、ということをテーマに、僕らとしては様々な人たちの意見をもとにクリエイティブをつくっていきたいと考えているので、実はこれといった定まったものがありません。

うちの会社のメンバーは、それぞれが異なるバックグラウンドを持っているがゆえに、内装設計もできますし、大きなフェスなどの空間演出も行い、かつブランドなどのプロモーションやディスプレイのデザインも行っているほか、不動産の活用事例などもつくっています。

経営者でありながらアーティストであり続ける

ぴこ福島さん自身、社長でありながらもアーティストとして、デザインやプロデュースに取り組んでいらっしゃると思いますが、表現することと経営することとの間で何か葛藤はありませんでしたか?

福島日々メンバーには伝えていますが、僕は社長業を行いたいわけではなく、クリエイター的な立場で働きたいと思っています。ただ、始めたからにはプライドを持って全うしたいと思っています。余談ですが、代表になったのはじゃんけんに負けたからという理由です。

ぴこじゃんけんで決めたとは面白いですね。

福島学生のノリだからこそできましたが、次に会社をつくることがあったらじゃんけんで決めるということはやめた方がいいと思っています。(笑)
元々はCEOという肩書きはあっても経営のノウハウはゼロの状態でした。基本的にはクリエイターとしての立場を保ちつつ、その傍らで経営を勉強して、今やっと4期目にたどり着いたという形です。

ぴこ福島さんのお仕事は、他のクリエイターさんとの化学反応があったり、足を運んだ人の行動や感情をデザインしたりすることが魅力的だなと感じますが、福島さん自身は、仕事のどういうところに面白みを感じていますか?

福島うちの会社の社名は「ANCR」と書くのですが、Arising New Chemical Reactionの頭文字を取っています。「新しい化学反応の発生」をテーマにしていて、弊社のロゴも三角フラスコから化学反応や気泡が出ていく様子を表しています。
様々なものをかき混ぜながら、ひとつの器の中で化学反応を起こしていき、結果的に現れてきた最終的な答えというものが、僕たちが出すデザインと考えています。

必ず、ひとつのプロジェクトに対して1人のメンバー、いわゆるインテリアデザイナーだけで行うのではなく、例えばアーティストや音楽家を混ぜたり植物デザイナーを混ぜたりといった形で、プロジェクト毎に様々な強みを活かしたメンバーをかき混ぜながら、ひとつのアウトプットにたどり着くということが特徴になっています。

「人を、世界を、混ぜ合わせる」循環をつくる

ぴこそのように様々なモノや人をかき混ぜながら、空きテナントに対する活用といった、街全体の活性も行っているかと思います。

街の中の循環を生み出すという部分で、SETAGAYA PORTのコミュニティスペースがあるIID 世田谷ものづくり学校内に7月にオープンしたカフェ「CYCLO」も、“出会いの循環”をコンセプトにとても感覚が満たされるような空間になっていますね。本の交換ができたり、店内の観葉植物が購入できたりするのが魅力的です!CYCLOを始めるきっかけはどういうものだったのですか?

福島元々弊社が提携させていただいている不動産が持つ日本橋の遊休不動産を活用して、そこでの人の流れを循環させていきたいということから構想が始まりました。その日本橋エリアは再開発の影響もありまだ実現していないのですが、世田谷ものづくり学校との出会いから、世田谷での実現に至りました。

「CYCLO」はギリシャ語で「循環」という意味を持つ言葉です。食事の場でありながら、カウンター越しにお店の人とお客さんのやりとりから交流が促進されて、訪れる人から街全体に大きな循環に繋げたいという想いがこめられています。

ぴこ「本を持ってくると交換ができる」という取り組みは、参加しやすい小さなアクションでありながら、足を運んだ人が実際に循環の一部になれるというのが素敵です。

福島僕たちがつくっていたコンセプトと、IIDのコンセプトがマッチしていて、IIDの中での循環ももちろんそうですし、世田谷区内の事業者さんとの連携や地域の方々との連携の拠点にしたいと考えました。そこに「本」というキーワードを置いて、本による人々の言葉の循環であったり、出会いの循環をテーマに世田谷のモデルにさせていただいたという形です。

ぴこSETAGAYA PORTとしても先日交流会の会場としてCYCLOをお借りさせていただき、まさに出会いの循環が起きていました。

福島SETAGAYA PORTさんと協力させていただいた背景も、循環の拠点という部分で共感したことにあります。事業者プラットフォームは、他の区だとそこまで活動的ではないと思うのですが、やはり僕たちの拠点を置く世田谷において自分たちだけで事業を行うというよりは、横の手を取り合っていきたいと考えています。
実はCYCLOのお米も三軒茶屋の商店街の「三鈴米穀」さんからご提供いただいているものなので、地元の食材や地元のお店から仕入れたものを使うことで、フードの循環も生み出しています。

ぴこSETAGAYA PORTは同じフロアに114号室というコミュニティスペースがあるので、メンバーさんにもぜひ利用して欲しいですね!

今後の展望として、世田谷ではどのような取り組みを行っていきたいですか?

福島CYCLOを拠点として、周辺のエリアや世田谷全体としての循環をつくり、最終的には、世田谷区と一緒に事業を行う中で区内のいろいろな拠点を整備して、コミュニティ形成のようなものができると良いなと思っています。
会社としては、大きな街としての化学反応を起こせたり、大きな街を一つの空間として捉えてデザインができるのではないかと思います。

ぴこそれこそ、ANCRが掲げていらっしゃる、「人を、世界を、混ぜ合わせる」という理念に帰結するのだなと感じました。SETAGAYA PORTとしても手を取り合って世田谷を一緒に盛り上げていきたいです。

(文:コミュニティマネージャー ぴこ)