今回の話し手 寳田隼人さん

フェアトレードタウン世田谷推進委員会 事務局

普段は世田谷区内で働く傍ら、国際的な認証制度であるフェアトレードタウンを世田谷区で実現する為に、市民で構成する推進委員会の事務局員として活動。また世田谷区在勤者として二子玉川を拠点に多摩川のクリーンナップ団体を立ち上げるなど、世田谷区内で環境社会活動に従事する。アウトドア企業に勤務。

フェアトレードへの入り口

ぴこ寳田さんは、フェアトレードタウン世田谷で活動される前から、地球環境や生態系の保護と改善に取り組むアウトドアブランドのパタゴニアで働いていらっしゃいますね。環境問題については前々から関心があったのでしょうか?

寳田隼人さん(以下、寳田)はい。パタゴニアに入る前に、自然環境の厳しさの中で暮らす経験をし、人が自然環境に与える影響をこの目で見たいと思っていました。そして学生時代からの登山好きも高じて山小屋で働いたんです。

寳田山小屋も結構、環境問題が凝縮されています。登山道や小屋の整備運営は極力環境への配慮がされていますが、やはり観光や開発、登山者が自然を楽しむ中で、生態系に負担をかけている実態はあるということを知りました。かといって、そういったアクティビティ含め人間の営みを否定するのではなく、人間と自然が共存する方法がきっとあると思い、そういう道を探したいなとリアルに感じました。

山小屋から風景

ぴこパタゴニアに入社してアウトドア用品を提供する側になったことで、消費の選択や作り手の労働環境の改善などに、よりフォーカスしていくようになられたのでしょうか?

寳田はい。もともとパタゴニアの取り組みに興味を持って入社したので、環境問題への理解はありましたが、直近の勤務地の二子玉川が大きな商圏という事もあり、消費行動が関わる「自然環境への負荷」に対するフォーカスが強まりました。

その後、会社の取り組みの中で直営店ごとの地域でソーシャルアクションを後押しする取り組みがあり、私はその責任者に選ばれたんです。それを機に、世田谷のフェアトレードタウン認定を目指しているグループがあることを知り、消費のあり方を変えるきっかけが作れたらと思い、一緒に新たな団体を設立しました。

ぴこその団体が、フェアトレードタウン世田谷推進委員会ですね。

寳田はい。そこで大きく印象に残ったのは、フェアトレードは「向こう側に人がいる」ということでした。「地球環境が危ない」と言われても、広い世界の様々な問題と実生活の間には物理的にも仕組み的にも隔たりがあるので、よっぽど調べたりしないと自分ごとになりにくいと思います。
しかしフェアトレードの場合、製品を作ってくれている人の生活や境遇に関する事なので、より身近でイメージし易く、かつ差し迫って感じられました。

ぴこたしかに、人権や労働環境の問題となると、自分と同じ人間が苦しんでいるので、より多くの人が身近な問題に感じることができそうです。

世田谷のフェアトレード事情

ぴこ消費者や消費行動に対して、どのような考え方が必要でしょうか?

寳田まずは「買い物は投票」ということです。物を得るためにお金を払うということは、対価としてのお金が経済に流れるということになります。知らないうちに人や地球を苦しめることに加担してしまわないようにするには、そのお金の生き先がどこであって、どういう行いを支援することになるのか、ということまで考えを巡らせないといけません。

ぴことても大切な考え方ですよね。世田谷には現状、誰がどこでどう作ったのかということが分かる商品であったり、作り手の生活の改善や自立を促すようなお店はどのくらいありますか?

寳田個人のセレクトした商品を扱うお店や個人事業主のような人が、独自にしっかりと生産現場を確認した上でメッセージを持って取り扱っているところは多くあります。フェアトレードの専門店は今の所ないのですが、People Treeの母体は奥沢にありますね。それに割と今は流通が広がっているので、フェアトレードのラベルがついているものであれば、 コンビニなどでも扱っています。

ぴこエシカルに関心がある人は、そういったお店や商品をどうやって探せばいいでしょうか?

寳田フェアトレードタウン世田谷推進委員会で世田谷エシカルマップというものを作っていますよ。バラバラに活動している人たちに向けて、「HPやMAPに掲載してもいいですか?」「イベントを行うときに一緒に出店しませんか?」というようなコミュニケーションをとることで世田谷にエシカルな消費に関わる人同士の繋がりが出来てきています。

ぴこお店と人だけでなく人と人も、目に見えるネットワークでつながると良いですよね。

寳田ほかに取り組んできたこととして、 定例会と勉強会があります。定例会はコミュニティ外の人にもオープンにして毎月開催していました。そして講師を招いた勉強会は2ヶ月に1回行っていました。現在こうしたオフラインの集まりは開催が難しいので、やり方を模索していますが、以前は春先の世界フェアトレード・デーのイベントや、秋の世田谷区とのイベントなども行っていました。

勉強会の様子

世田谷産業フェスタ(2018)の様子

消費の意識改革!学びと商業の連携を

ぴこ前回のLABO EVENTの際、世田谷の可能性についての話題で、寳田さんが商店街のお話をされていたのが印象的でした。

寳田そうですね。世田谷には商店街がたくさんあるので、売り手と買い手の距離が近いところが魅力だと話しました。顔馴染みになったり、コミュニケーションもとりやすい分、手に取った商品がどういうものなのか尋ねたり、伝えたりできます。

ぴこ消費のあり方を考えるときに、商店街には大きな可能性がありますね。値段が安い商品や昔から馴染みある商品など、いろんな選択肢がある中で、フェアトレードやエシカルの商品を手に取ってもらうために、何が必要だと感じますか?

寳田実際は、エシカルな商品を能動的に探したり、商品についてお店の人に尋ねて選ぶ人は少なくて、消費者意識が相当高くない限り「もうおなじみのもので良いや」というふうに思う可能性が高いと思います。
啓発活動ももちろん大事なのですが、同時に教育の方面から切り込んでいかないと意識が変わることは難しいですね。

ぴこたしかに。「良い選択」っていうのは人によって「安さ」だったり「馴染み」だったりします。エシカルな選び方をしたいと思えるきっかけとして、「消費の向こう側」についてや、自分なりの「選び方」を考える機会があるといいですね。

寳田例えば、小学校でエシカルやフェアトレードにフォーカスした授業をして、課外活動で実際に商店街に行ってみるプログラムがあれば面白そうですね。
お店の人に、どこで誰が作ったものなのか、素材はどこからきているのかなどを尋ねることで、仕入れの仕組みを知ったり、消費のあり方を考える機会になります。

ぴこ楽しそうです!世田谷でもできたらいいですね。

寳田教育と商業が連携したら素敵だなと思います。
子供たちが「学校でこういう授業があって〜」などと親に話すことで、「子供でもこういった問題のことを知っていて、考えたりアクションしたりしているんだ」と気付かされると思います。親世代に向けて「エシカルなものを買いましょう」と言うよりも、子どもたちに伝える方がよっぽど効果的ではないかと思います。

ぴこエシカルやフェアトレードについて、もっと小学生くらいのときから教えてもらいたかったと思いました。

寳田僕の世代ではエコマークぐらいしか教わった覚えがないですよね。(笑)

ぴこ教科書で「フェアトレード」 という言葉は見たような気がしますが、自分に直接関係があって、自分にもできることがあるなんて思っていませんでした。実際に買い物をしながら学べる場があると楽しめそうですね。

「楽しい」「素敵」がないと始まらない!

寳田どんなに人や地球に優しいとはいえ、結局「楽しい」や「素敵」がないと、アクションし続けるのは難しいと思います。

ぴこせっかく意識して買い物をしても、楽しめなかったら、それっきりになってしまいますよね。

寳田社会課題や地球環境への取り組みは、どこかで我慢して行わなければいけない、という潜在意識がある気がしています。例えば「わざわざ高いものを買わなければいけない」「わざわざ調べなければいけない」といったようになってしまうと、続かないと思います。
「みんながやっていて楽しそう」「それってお洒落な考え方だよね」と思えると、広まりやすいと思います。

ぴこポジティブなアクションには持続可能性を感じます。SETAGAYA PORTメンバーと一緒にどんなことができそうでしょうか?

寳田今話してきたように「楽しくお洒落に」は世田谷らしいキーワードだと思います。それが結果的に良いことにつながるようにしていきたいです。
実際のところ、「法整備をする」というアクションが1番ダイレクトに環境問題の解決へ繋がりますが、それにはたくさんの苦しみや我慢が伴ってしまいます。だからこそ地域の人が楽しめる方法を模索したいところです。

ぴこ使命感や責任感で無理をするのではなく、「楽しくお洒落に」取り組むことで、興味がなかった人も振り向いてくれそうですよね。

寳田ポテンシャルを踏まえると、次第に世田谷区内で大きなうねりとなって、あっという間に「お洒落で良い街」になるのではないかと思うので、そのきっかけになると良いなと思います。

ぴこ「お洒落でいい街」は、広く共感してもらえそうな表現ですね。この記事が、お洒落で楽しいアイディアが生まれるきっかけになるといいなと思います。

(文:コミュニティマネージャー ぴこ)