今回の話し手 植田響さん
ジャズピアニスト・映像音楽作家・yosemic Tokyo共同代表。
5歳からクラシックピアノを、高校からジャズピアノをはじめる。洗足学園音楽大学ジャズ科へ進学し、大学卒業後、単身渡米。ニューヨーク市立Queens College Aaron Copoland School of Muisc修士課程に入学、ジャズ作曲を専攻し、ルイ・アームストロング“サッチモ”アワードにも参加。卒業後にニューヨーク市内のクラブや教会で演奏活動を展開。また、表現者・アーティストの団体“yosemic”を主催。2020年に帰国し、映像音楽作家としても活動。
https://www.hibikiueda.com 「yosemic」
https://yosemic.com/
音楽と表現の場をつくる
事務局 はじめに、現在の活動についてお話をうかがっていきたいと思います。 現在は「yosemic Tokyo(ヨセマイク トーキョー)」の共同代表として活動をされていると思いますが、普段はどういったことをされているのでしょうか?
植田響さん(以下、植田さん)僕は、ピアノを弾いて、曲を書きます。その中で、「yosemic Tokyo」では、ただみんなと一緒に楽しくやってるだけで、実はあまり代表っぽいことはしていないです(笑)
「yosemic Tokyo」は、ニューヨークにいるときに、5人くらいの仲間ではじめました。何度かイベントみたいなことをやっていたときに、同じく現在「yosemic Tokyo」の共同代表である福田(※)が来てくれて、活動を手伝いたいと言ってくれたことがきっかけでした。
(※)2022年9月に実施した「SETAGAYA NEW WAVE」のトークセッションにて登壇。
福田 捷太郎さん トークセッションアーカイブ動画:
https://www.instagram.com/tv/CimImS6DHO0/?utm_source=ig_web_copy_link
植田さん現在も、ニューヨークにいるメンバーもいますね。「yosemic」自体の代表を務めているのがニューヨークでロック音楽をやっている友人で、僕と福田が「yosemic Tokyo」の共同代表という構図です。
事務局そうだったんですね!ニューヨークには、どのくらい滞在されていたんですか?
植田さん4年くらいです。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに帰国しました。
事務局長く滞在されていたんですね。帰国後は、拠点を下北沢にされたんですよね。
植田さんはい。下北沢にあるロバートというコワーキングスペースを一部お借りして、週末だけBARをやっています。本当は、BARというよりパブにしたいんですよね。飲みにくるというよりも、人と交流したくて来るような場所にしたくて。クリエイターとか表現者とか、表現を楽しむ人たちが集まるパブ。「表現って楽しいな」と思える場所にしたいと思っています。
事務局とても素敵です。実は、私自身ロバートさんにお邪魔したことがありますが、実際に表現を楽しんでいる方々が多く集まっていらっしゃいました。すごく楽しかったです!
ちなみに、「yosemic Tokyo」での活動以外では、個人で作曲活動などもされてるんですか?
植田さんそうですね。むしろそれしかしていないかもしれないですね(笑)。
事務局そんなことはありません(笑)。実際に、どちらの活動の比重が高いのでしょうか?
植田さん割合は、作曲のほうが多いですね。ネット広告やSNSで使われる曲だったり、その他にも、短編映画のお仕事をもらったり。シンガーソングライターの方の曲を書くのを手伝ったりもします。実は、今度バンドみたいなこともはじめる予定なので、今後はバンドもやりますね。(笑)
事務局とても幅広く活動されていらっしゃるんですね!
植田さんそう。なんでもやるぞっていう(笑)。仲良い人たちと楽しいことをしたいってだけですね。
事務局植田さんとは、今回ご縁があって、SETAGAYA PORTの取り組みにご参加いただきましたが、もともと世田谷との関わりはありましたか?
植田さん僕は、井の頭線の久我山が実家で、生まれは隣の杉並区ですが、下北沢は学生時代によく通った街です。ライブハウスがあったので、学生時代はライブをしたり見に行ったり。自転車に乗って5分くらいで久我山なので、ほとんど世田谷みたいなものですね。
事務局植田さんにとって下北沢は、特に思い入れのある街なんですね。
せっかくなので、今回、植田さんに参画いただいたプロジェクト、「セタオーレーベル(※)」についても、ぜひうかがっていきたいと思います。
※SETAGAYA PORT「セタオーレーベル」プロジェクト
https://setagayaport.jp/news-events/setaolelabel
表現者として向き合う福祉
事務局セタオーレーベルは、福祉をテーマにしたプロジェクトのひとつですが、ご相談させていただいたときの心境などを聞いてもいいですか?
植田さんこれはもうすごい取り組みなので、話を広げたら終わらないくらいですね。
そもそも、芸術の価値をどこに置くかとかそういう話になりますが、芸術って「上手い・下手」とか、「売れてる・売れてない」が、今の社会の中では、評価基準になってしまうと思うんです。
けれど、芸術の価値というのはお金とかではなくて、なんというか、” 自分の気持ちが表現されているだけでまずは十分 “ であって、たとえ1人にでも、自分の表現したものが響いたり、何かに繋がったとしたら、それでもう価値があることだと僕は思っています。だからこそ、このプロジェクトを通して、障がいのある方たちと一緒に音楽をつくるというのは、僕としてはすごく価値のあることだと思いました。
事務局このプロジェクトに対して、そこまで価値を感じてくれていることをとてもうれしく思います。
植田さん「yosemic」も、レベルの差などは一切関係なく、売れるとか売れないとかよりも ”表現を楽しむ” というのが大前提です。
これは割と僕個人の考えになるんですけど、「yosemic」はそういうコミュニティになったらいいなと思っているので、そのきっかけとなるような作品/プロジェクトに関われたのは、すごくうれしいなって思っています。
少し話が脱線するかもしれませんが、実は音楽の教員免許を持っているんですけど、取得するための教育実習として、3週間くらい養護学校に行くんです。短い期間ではあったんですけど、子どもたちと一緒に過ごす中で、普段は歌うことが難しい子たちも楽しそうにしてくれたりして。音楽の持つ力はすごいなと実感しつつも、子どもたちがもっと楽しめて、かつ子どもたちが奏でる音を、より活かすにはどうしたらいいんだろうか?と考えさせられた経験がありました。
同時期に、障がいのある方たちと一緒に、絵のワークショップを行っている人の存在を知りました。その人は僕の母の友人なんですが、自分で絵を描いて展示もするし、イベントもやります。作品を病院に飾ったりもしていて、世の中に貢献する活動 をしてることにとても憧れました。ただ、それを音楽でやれるかと言われたら、めちゃくちゃ難しいなと思っていました。
そんな中で、まさにそれを具現化している人たち(SETAGAYA PORT)がいて、関われることが素直にうれしかったです。それと同時に、福祉作業所の利用者の方たちの音にどれだけ調和できるかというか、どうしたら上手く ”そのままの音” を活かせるか、ということをとにかく考えました。「利用者の方たちがいたから、この音楽(作品)が生まれたよ」という価値を出したいけれど、音楽となると難しさもあるなという。
事務局それこそ、音楽が主張しすぎずに、利用者の方たちが生み出した音をちゃんと主役にしたいということですね。
植田さんそうですね。音楽となると、環境音は雑音になってしまいかねないのですが、そこを音楽として成立させて、かつ人が聞いて「綺麗だな」「いいな」って思う音楽にするにはどうしたらいいんだろう。と、とにかく悩みましたね。そして今も悩んでいます。もし自分がつくった楽曲をアップデートするならどうするのがいいのか、とか。難しいですね、本当に。
事務局たくさん悩んで、想いをめぐらせて制作してくださったんですね。
オファーさせていただいたときに、受けるかどうか迷われたりはしませんでしたか?
植田さん全くないです。先程、話した通り、今の社会はお金が価値になっているように思いますが、このプロジェクトは、それに対して表現で対抗するというか、お金だけじゃない価値があるよと言える物理的なもののような気がしています。僕は、芸術っていいでしょ?って戦いたいです(笑)。
事務局楽曲に込められた想いを言葉にしていただいて、ありがとうございます。曲名の「natural」にはどういった想いが込められているのですか?
植田さん僕がメインになってしまって、音自体がスパイスのようになるのは嫌で、「もし僕が利用者の方たちと一緒にその場にいたとしたら、どんなふうに音で遊んだかな?」って想像しながら曲を制作しました。
音をできる限りそのまま使いたくて、なるべく加工せずに音で遊ぶような、僕も皆さんと一緒に遊ぶことができたらいいなって。だからこそ「ナチュラル」。自然のまんま。という想いが込められています。
「Natural」ストリーミング再生はこちらから:https://linkco.re/eXDZf29F
事務局「遊ぶ」という表現が、とても素敵ですね。
植田さん自然にそのままみたいな、これは感覚のようなものなので超難しかったですね。正直、実際に表現できているかは微妙ですね。
事務局ご自身の中では、きっと「完璧」というのはないのかもしれないですね。
植田さんそうですね。今できたってなったら、次にもう新しいものを見てしまっているので、次どうやったらもっとよくなるかな?って考えていそうな気はしますね(笑)。
" 表現 " をより身近に捉える
事務局音楽に対する想いをたくさん聞かせていただいたのですが、個人の活動しかり、また「yosemic」として、今後広げていきたい活動や、目指されている姿など についておうかがいできますか?
植田さんメンバーには芸人やダンサー、絵を描く人とかがたくさんいるので、音楽以外のどんなジャンルでもウェルカムなんです。それを広げたいというのはもちろん、「個々人の表現が否定されずに、受け入れられる場所」という価値観を大切にしたいと思っています。
そもそも、人とのコミュニケーションが最初の ” 表現 “ だと思うんです。だから、僕らが大切にしている価値観を広げるというか、そのマインドを持つ人たちが増えていったらいいなと思っています。
あとは、これは僕個人の想いなんですけど、「家族」みたいなコミュニティにしたいと思っています。誰かが困っていたら、損得勘定 なしに助け合えるようなコミュニティです。「あそこ(yosemic)に行ったら楽しいし、助け合えるから行こう」みたいな、そんな場所になったら一番うれしいです。
事務局ありがとうございます!
” 表現 “ と聞くと、どうしても音楽や芸術のイメージが強くて、「自分にできることはないかな」と思ってしまいがちですが、植田さんのお話を聞いていたら、そうではないのかもしれないと思えました。
最後に、今回参画いただいたセタオーレーベルには、今後どのような人たちに参加してほしいですか?
植田さんこれはただ僕の判断基準なんですけど、やっぱり「利用者の皆さんと一緒にやりたい」というマインドがある人が大前提だと思っています。極論は、利用者の皆さんの音で一緒に音楽をつくりたいと思う人なら誰でもいいのかなって。そこからはきっと、染まりながらでもいいのかなと、そんなふうに僕は思います。
植田さんの真っすぐな言葉からは、「人と関わること」の楽しさがひしひしと伝わってきました。
植田さんをはじめ、「yosemic」さんを筆頭に、誰しもが表現者になれる社会がきっと広がっていくはず。心からそう思えるお話でした。
また、ぜひ一度、「yosemic」へ訪れてみてください。きっと、「楽しい時間」と「うれしい出会い」が待っています。
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